相続問題は人間関係を壊す

商売柄相続問題には時々ぶつかります。そのⅠは社員の相続の問題。そのⅡはご近所の相続問題。ほんとうに身近にある問題です。

そのⅠ 社員S君の奥さんの相続問題
社員S君の奥さんをA子さんとしましょう。A子さんの母親が調布駅前のマンション(時価3,000万円)に一人で暮らしていました。A子さんは姉2人妹1人の4人姉妹です。お母さんも高齢で弱って来ているので東京に住んでいるA子さんと妹が面倒を見ることになりました。2人の姉は札幌と静岡に暮らしています。A子さんと妹は時々調布のマンションを訪れ介護をしたり泊まったりしていました。4人の娘達の間では、母親の面倒をみた2人がそのマンションをもらうという口約束がありました。
その時、A子さんの夫の我社の社員S君は妻のA子さんに忠告しました。相続については念のため公正証書にしておくべきだと。A子さん答えは「とんでもない!私達4人は今まで喧嘩をしたこともなく仲良くやってきた。公正証書などという話を持ち出したら、それこそ仲が悪くなってしまう。」というものでした。S君はそれ以上は忠告せず1年後に義母は亡くなった。
ところが北海道の長女が、乱暴に言うと、母が死ぬのが早すぎて面倒を見た期間とその介護料はマンションの価格に見合わない、つまりおつりがあるはずだからマンションは4人で分けるべきではないかと言い出した。静岡の次女もこれに同調し姉2人と妹2人のバトルになり結局4人で分けることになり決着した。しかし2人づつの姉妹としての付合いは絶たれ、その1年後に長女がガンで亡くなったが妹2人は葬式にも行かなかった。
 
そのⅡ 御近所の相続問題
地元民のAさんは7人兄弟。40年前に両親が亡くなった時に財産分けをしたが、坪70万円ほどする古屋つきの40坪の土地はすでに死亡した次男の内縁の妻が住んでいたためこの土地は6人の共有名義となっていた。兄弟たちは、土地をもらい自分のお金で家を建てた人や土地建物を親からもらった人などいろいろで、それぞれ地続きで所有し中には入口のないまま兄弟の土地を自由に通行して建物を使っている人もいる。当時はまだ家督相続のしきたりが残っており長男が不動産・ビル・商店・自宅などの土地をほとんど相続し、その他の兄弟は自宅の土地建物と長男が一人につき60万円づつ6人に合計360万円を支払って一応相続は大きな問題もなく済んだ(昭和45年頃)。この時本件土地に隣接する約400坪の土地は長女・長男の貰い分としてきちんと登記しましたが、他は全部持分登記と考えていい。
20数年経ち次男の内縁の女性も年をとり施設に入所して空家となり、平成22年にあらためてこの土地と古屋を放置できないと長男が私に相談にきたのです。私は当然皆顔見知りの人達ですから作戦を立てる前に全員に相続を解決する意思の確認とそれぞれの言い分を聞いた。

長男 77歳の言い分
昭和40年代の相続時に他の兄弟に1人60万円づつ支払ったのは無理やり盗られたからである。自分の相続は昭和45年に済んで今回貰い分ないが他の6人より360万円多くもらいたい。

 

三男 既に死去、妻・長男・長女が相続。相続人である長男の言い分
自分の土地は現在駐車場がないので、土地を分割するときその分車の置けるスペースがあればよい。あとは皆が平等であればよい。

 

長女 夫共死亡 長男は妻・子供2人・次男・三男と同居
長男の言い分
自分達は40年前当時に全部相続はもらっていて済んでいるので、全員で話がつけばそれで同意する。
 
四男
この人は隣の市に住んでいて特に問題ないが、長男の60万円づつ360万をの話には断固反対。長男は当時も今も貰いすぎと思っている。
 
五男
入口道路が無いので分割して道路に接するようにしてもらいたい。その他売却のお金は平等に。

六男 妻が某宗教の女性幹部でとかく口出ししてくる。
自分は家と土地を当時もらったので皆が同意すれば自分も同意する。但し、今回相続の土地の40年分の税金270万円を支払っているのでその分は他の兄弟で分担して支払って欲しい。また、自分の所有する土地の入口の道路を所有していないのでこれを解決してもらいたい。
 
次女
隣接の市に住んでいて裕福な家に嫁いでいる。大工さんの妻。
相続当時に土地をもらっていてその土地に家を建てて娘夫婦を住まわせている。従って一族の地続きの土地の真ん中に娘さん夫婦は住んでいることになる。
この人は長男の360万円を多すぎると反対。当時多く貰いすぎた長男と思っているから60万円は当然と考えている。そして四男と仲が良い。またこの人は四男・五男の高校入学から卒業までの資金を出している。
以上が各々の言い分や状況でした。
問題点は長男の360万円の主張をどれだけ値切るか。
遺言状もないし、当時税理士の作った書類も正確ではない相続の分割方法のみ。現在の土地所有権も当時の税理士の考えだと皆さん言うが、共有名義や兄弟の土地のうえに自分の家が建っていたりしていわゆるアトランダムな状況でした。長男も当時は360万円の支払いを渋っていた。
そこで私の事務所が業務を終了する7時から全員で言いたいことを言い合う場所に提供し、私がレフリー役を務めることにした。大体夜の7時半に集合。毎週土曜日か日曜日に開催。夕方からのバトルでした。
第1回から波乱含み。長男は攻められっぱなしだがガンとして360万円は譲らない。○○家を守ってきたのだから当然と長男。四男は長男に対して、農業の跡継ぎをせず戦後勝手に東京でタクシーの運転手をしていたことを非難する。長男はタクシーの運転手時代に知り合った女性と結婚。東村山に戻り八百屋を開業。ビルを建てたりして経済的には問題なし。実はこの長男と私は最も仲が良いのです。 次女は高校生の下の兄弟達の経済的援助をしていたので長男以外は言うことをききそう。また、物分りも早い。
昔のことから一人づつそれぞれ言うわ言うわ、自分に都合の良いことを。面倒を見た話や、勝手に家を飛び出したと長男を攻撃する四男。
そのうち五男の妻がどうしても同席して言いたいことがあると言ってきかない。相続の問題は連れ合いが口を出すと感情的になってもめごとが大きくなるのが相場ですから止めたほうがいいと言ってもきかない。仕方がないので私が各兄弟にとりあえず話を聞くだけでいいから同席を認めて下さいとお願いする。
五男の妻は宗教団体の幹部ですから弁が立ち話は慣れている。一人でしゃべっている間に普段温厚で物分りの良い次女の姿は豹変。その目つきはこの女性幹部を射抜くような怨念のこもった親の仇にでも会ったような顔つきでにらみつけていた。やはりあの人は出すべきではなかった。
その後、計7回の開催の間に分割方法・価格・一人の取分・税金等具体的に数字を出して、最終的に我社がその土地を買い取ることになりようやく長男も360万円を売却した代金の取分から差し引くことで決着した。