数年前にきのこ採りのベテラン村民に山に連れていかれ、このあたりのガサ藪や林の中に入って採れと言われた。ベテラン村民は私にそれだけ言って山の中にさっさと入って行った。遅れては大変と見失わないように懸命につかず離れず1時間程きのこを探したが、自分は全く採れない。連れは時々休んではたばこをふかしていたが手持ちの袋には段々きのこが溜まって行くのです。何で採れないか聞くと、きのこを探すということは「木の株」を探すのだとのこと。地べたに直接生えるきのこはほとんどなく、あっても毒きのこや食べられても美味しくないのだと。なめこやなら茸・天然の舞茸はすべて木に生えるということを教わった。それから崖地であろうが急傾斜地であろうが太い木で枯れた木、伐採された木の根、切り株を探してみた。その日はようやく家族が食べるなめこ汁・なめこおろしに足りるなめこをやと採ることができたがくたくただった。
途中かの村民がどうして何もしないのにきのこ袋がいっぱいになって行くのかが分かった。疲れないようにゆっくりゆっくりと山の斜面を出来るだけ昇り降りしないで平行に歩きながら目だけはギラギラして木の切り株を探すのだ。後で彼から私に忠告があった。
「“よすけっぽ”のような目つきでは採れないぞ。疲れないようにゆっくり歩き、目つきは泥棒のようでなければならない。」と。因みに“よすけっぽ”とは“うすのろ”とか“ぼんくら”のことである。「ハイ。わかりました。」と僕。
これからがきのこ採りの少しイジの悪いところだが、木の株にきのこが一面に生えているのを発見するとその株に腰を下ろしてたばこをつける。休んでいるのかと思ったら右手だけは常に動いているのです。休んでいるふりをしながら木の株からしきりになめこを採っては袋に入れているのです。見たぞぉ!!なるほど、なるほど。後で彼に言われたのは、きのこの生える場所は決まっているので次の年に来ればほとんど採れるわけですから他人には採れた場所を知られないようにするのです。
それから自分も面白くなって1人でもきのこ採りに行くようになりました。木の株に一面花が咲いたように真っ赤になめこが附着しているのを発見した時は嬉しくて思わず「おおぅ!」と声を上げそうになったが、先ずはあたりを見回して誰もいないのを確かめて、それから、もうこっちのものだと思って手で口を押え声を飲み込みゆっくり時間をかけて採ったきのこを袋に入れました。
今年はきのこの当り年で花咲温泉郷の管理人から舞茸(もちろん天然)、なら茸(現地の呼び名はもたせ)、なめこ、あみたけ、たまごたけなどもらいました。最も美味はなら茸。油いため・玉子とじなどいいですね。天然の舞茸は数年かけて生える木を記憶しているのでほぼ毎年とれるようだ。但し、村民の中にはその場所を知っている他の者もいるので、大きくなるころを見計らって採りに行くともう誰かに取られた後で残念ということも多々あるという。例年必ず採れる場所も数か所あるが、崖をよじ登ったりロッククライミングのようなことをしないと行けない場所があるらしい。こういう場所は自分一人いないことが多いのです。
先日も管理人が私のためにきのこを採りに行ったが青い顔をして戻って来た。崖をよじ登ったら大量の舞茸が生えた木の切り株の横で熊が昼寝をしていたという。思わず声を上げそうになったが、グッとこらえて相手に気付かれないようにそっと崖を下りて車に乗り込み逃げるように帰ってきたのでした。
舞茸は生えてくる場所を知らなければ到底採ることは無理だとも教えられた。管理人は私に場所を教えても良いよと言ったが、私が知れば誰にでも教えてしまうから知らなくていいと断った。君舞茸を採る人、私食べるだけの人でいいと。
今夜も舞茸の天ぷらと舞茸スープで晩酌です。もちろん良い香りの天然物。歯ごたえも充分です。