F・ヤスケ氏70才。春一人で岩魚釣りに、行きつけの山奥の沢へ入る。
釣りの腕はサウスポーでの竿のあやつりは名人級。
午後四時頃30cmの岩魚数匹の成果。あと2,3匹と相変わらず足音もさせず清流のよどみに針をたれると目の前に子熊2匹。50cmぐらいの身長、一見子供に見えたのが大事となる。
甘く見た彼は竿で警戒心の少ない小熊が近づいてきたのでつり竿でたたいて追い払おうとした。
ところがこれを見つけ母熊が猛然と熊笹の中から現れ鳥が飛ぶように山からかけおりて、ヤスケ氏を襲撃した。先ず右フック一発をくらい、右ほっぺたがベリッとぶら下がった。
血が吹き出たのと同時に次に二発目のフックで総入歯が噴き飛んだ。倒れたところそれでも逃げようとした時背中に一発、ようやく熊は爪の引っかき技、あとから分かったことだがこの傷は本人は気づかず病院に担ぎ込まれた翌日本人と医者が気づいた。
一人ぼっち山中で約一時間半歩きようやく顔見知りの人家にたどり着く、血だらけの垂れ下がったほっぺたを右手で押さえそれでも釣り竿だけはしっかり左手で持って至急救急病院へ。
幸い命は取り留めたがしばらく入院した。数ヶ月後、私が熊君のフックですっ飛んだ総入歯をもったいないから現場へ一緒に捜しに行こうと申し出たが、おらぁいがねえだと。